今月のレメディ

Verat.(Veratrum album)バイケイソウ

Verat

こんにちは、荻野千恵美です。

6月に入って、ご近所の庭に咲くアジサイの花が、
一雨ごとに色づいていくのを楽しみに見ていました。
6月中旬、少し体調を壊してしまって、1週間ほど家にこもっているうちに、
アジサイはすっかり咲き切って、先の方から花弁が枯れ始めました。

ふと気づくと、アジサイの横では、
梅雨の頃から秋まで夏中咲いてくれる桔梗が、咲き始めていました。

夏休みを楽しみにしている子供のように、真夏の出番を控えて、
朝顔はつるを毎日少しづつ伸ばし、
ひまわりも初夏の陽を浴びてすくすくと背丈を伸ばしています。

私たちの生活や健康状態がどうあろうと、
自然は変化し続けているのだと、あらためて感じました。

さて、
今回は、5月に専門コース2年生の授業で勉強した後、
すぐにブログに投稿したレメディをご紹介したいと思います。

https://ameblo.jp/sunny-garden/entry-12805203678.html

『Verat.(Veratrum album)』

原料はバイケイソウ(梅恵草)。
白緑色の花が梅に似ていることと、葉が鶏卵に似ていることから、
バイケイソウという名がついたそうです。
緑色の花が多く、普通の花とは違い、どこか奇妙な印象を受けます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%82%A6

この植物の毒性は強く、交感神経に作用し、各内臓の痙攣をおこします。
激しい嘔吐と下痢から極度の衰弱になります。
顔面蒼白、冷汗がでます。
悪寒で体中が氷のようになり、頭痛がして頭が氷漬けになったような感覚になります。

この症状は、コレラにとても良く似ているようです。
今の日本では、なじみの少ないのですが、かつて日本でも恐れられた病気です。

https://www.asahi.com/articles/SDI202001173911.html

19世紀、コレラが欧州で蔓延した時に、このレメディVerat.は、
Camph.カンファ―(樟脳)、Cupr.カプラム(銅)とともに、
素晴らしい治癒効果を上げ、ハーネマンの名声を高めました。

衛生状態の良くないところでは、今も蔓延するこの病気は、
今まで元気に生きていた人に突然襲い掛かります。
激しい下痢と嘔吐が、人間の大切な命のもとである水分を急激に奪ってしまいます。

このレメディの特徴は「虚脱」状態です。
マテリアメディカでは、”Collapse”という言葉で出てきます。
意味は、虚脱、崩壊、倒壊、衰弱、挫折・・・。

人間の身体における「水」という存在は、
人間の社会的な面に置き換えるとどんなものになるでしょうか?

血液やリンパ液、粘液や漿液、唾液などとなって、
身体のスムーズな循環を支えてくれる存在のような役割を、
社会において担ってくれているのは「お金」ではないかしら。
「お金」によって、人は自分が生きるのに必要な循環を得ているとも言えます。

急激で激しい脱水から虚脱状態になるという現象が、
社会的な側面で起きたらどうなるかしら?

それが、このレメディの精神症状を表しています。

インドの巨匠、ラジャンサンカランは
著書“Soul of remedeis”で以下のように書いています。

”社会的地位を失ってしまったというフィーリングがあり、
いかなる手段を用いてもすぐそれを回復しなければならず、
さもないと自分は終わりだと感じている。
一度に何かを得る方法、たとえばギャンブルとかうそをつくとか
詐欺行為とかいった方法を見つけようとする。
冨や自分の重要性を示すことがVerat.の際立った特徴であり、
これを使って失った社会的地位を埋め合わせようとする。”

身体における水分というのは、
この世での人としての冨や地位にあたるかもしれません。

サンカランは、このレメディをプルービングしたときに見た夢についても書いています。

“まもなく引退することになった年老いた男性は、
引退することで社会的な地位を失うことになっていた。
彼はそのことを恐れていて、
まだ、自分は重要人物であることを示すために派手なパーティを開いた。”

嘘をついてでも、自分の裕福さを示したい。
このレメディを必要とする人は、本人だけでなく、
その前の世代が社会的な地位を失った場合にも多いそうです。
宗教や政治、ビジネス、などの世界での指導者のなかには、
こういった状態の人が結構いるのかもしれません。

サンカランと並ぶインドの巨匠サルカール先生は、
その著書“Just you see”のなかで、このレメディについて、

“Ars.アルセニカムとHyos.ハイオサイマス(ヒヨス)の色合いがあると思う。”

と書いています。

“このレメディは主要な急性病レメディの1つとして使えるが、
大多数はArs.アルセニカムを代わりに使っている。”

一般に、真面目でお堅いいArs.アルセニカムの人は、
好色・呪う・だます、とはご縁がなさそうです。
ヒヨスのタイプの人は、その気がありそうですが。

Verat.は下痢と嘔吐が同時に起きるアルセニカムと症状が似ているので
「植物の砒素」ともいわれます。

私は、このレメディの授業をするときはいつも、
作家・渡辺淳一が書いた「遠き落日」という本をご紹介しています。

https://honto.jp/netstore/pd-book_26001244.html

野口英世の人生を描いた本ですが、
子供のころに読んだ英雄伝記とはまるで違った人物像に驚きました。
ものすごい野心家で、浪費家、嘘つき、大ぼら吹き。
でも、どこか憎めない可愛い愛すべき人でもあります。

サンかランも、Verat,は、一緒にいて楽しい人だと記しています。

“おしゃべり、歌い、冗談を言い、陽気である。
また、神とつながっているというような
愉快なファンタジーを思い描いていたりもする。”

ぜひ一度「遠き落日」を読んでみて!